貸切バス事業者に対する輸送の安全を阻害する行為を未然に防止するため、継続的に確認する制度に、適正化機関が行う「巡回指導」があります。
巡回指導の結果や公安委員会や労働局等関係行政からの通報により、輸送の安全に支障を及ぼしている重要な法令違反の疑いがある事業者に対しては、「監査」が行われることになります。
こちらでは、貸切バス事業の監査の概要についてお伝えさせていただきます。
監査は、原則として事前の連絡なしに行われますので、日頃からしっかりと準備しておきましょう。
貸切バス事業者に対する監査とは?
巡回指導が地域ごとに指定された適正化機関(近畿貸切バス適正化センター等)が定期的に実施するのに対し、監査は運輸局又は運輸支局の担当部署が行う調査です。
巡回指導で発覚した法令違反等を端緒に、法令違反が疑われる事業者に対し監査が行われます。
貸切バス事業者に対する監査は、近畿運輸局管内の場合、運輸局長が公示している「一般貸切旅客自動車運送事業の監査方針について(下記参照)」に基づいて行われています。
>> 一般貸切旅客自動車運送事業の監査方針について(令和2年11月27日近畿運輸局長公示)
監査の種類
特別監査
引き起こした事故又は疑いのある法令違反の重大性に鑑み、厳格な対応が必要と認められる事業者に対して、全般的な法令遵守状況を確認する監査のことをいいます。
一般監査
特別監査に該当しないものであって、監査を実施する端緒に応じた重点事項を定めて法令遵守状況を確認する監査のことをいいます。
街頭監査
事業用自動車の運行実態等を確認するため、街頭において事業者を特定せずに実施する監査のことをいいます。
指摘事項確認監査
特別監査や一般監査において、輸送の安全に関わる緊急を要する重大な法令違反以外の違反の恐れが認められる事項が確認された場合に、当該確認の日から30日以内に是正状況を確認するために行う監査のことをいいます。
また、街頭監査においても、輸送の安全に関わる重大な法令違反がある場合に、同様に行われます。
監査が実施される場合
監査は原則無通告で突然行われますが、主に次のようなことが発覚したことをきっかけに実施されます。
①巡回指導や街頭監査により法令違反が疑われる場合
②運転者が死亡事故を起こした場合
③運転者が悪質な違反を引き起こした場合
④巡回指導を拒否した場合
⑤通報により、法令違反の疑いがある場合
⑥労働保険や社会保険に未加入の場合
⑦最低賃金法に違反している場合
⑧3年間に同一の事故を3回以上起こした場合
⑨車両火災事故、車輪脱落事故、整備不良に起因する死亡事故を起こした場合
⑩報告書等について、期限までに未提出、虚偽内容を記載、内容に法令違反の疑いがある場合
⑪車両火災事故、ホイール・ボルトの折損による車輪脱落事故又は整備不良に起因すると認められる死亡事故を起こした場合
⑫輸送の安全確保を命じられた場合
上記の事案が発覚した場合、社会的影響の大きいもの又は悪質なものである場合は特別監査、それ以外の場合には一般監査が実施されることになります。
監査の重点事項
一般監査や特別監査は、主に次の事項を重点として実施されます。
①事業計画の遵守事項
②運賃・料金の収受状況
③損害賠償責任保険の加入状況
④自家用自動車の利用・名義貸し行為の有無
⑤賃金の支払い状況
⑥運送引受書の作成・交付・ほ存状況
⑦運行管理の実施状況
⑧整備管理の実施状況
貸切バス事業者に対する行政処分等とは?
監査が行われた結果、法令違反がある場合、行政処分等が行われることになります。
行政処分等の基準について
貸切バス事業者に対する行政処分等の基準については、国土交通省自動車局長が発する「通達」と違反事項ごとの基準が記載された「別表」により定められています。
貸切バス事業者が法令違反を犯した場合、この通達と別表に基づき、行政処分又は行政指導が行われ、行政処分等の量定(基準日車等)が行われることになります。
例外などもありますが、基本的な行政処分等の基準について下記にまとめてみました。
行政処分等の種類
行政処分の種類には、自動車その他の輸送施設の使用停止処分(自動車等の使用停止処分)、事業の停止処分及び許可の取消処分があります。
また、これらに至らないものとして、行政指導(勧告、警告)があります。
なお、これらを合わせたものを「行政処分等」といいます。
初違反、再違反、塁違反
行政処分等を受けた日から過去3年以内に受けた同一の営業所における同一の行政処分等の回数により、「初違反」「再違反」「塁違反」に分けられています。
初違反‥1度も行政処分等を受けていない場合
再違反‥2度目の行政処分等の場合
塁違反‥3度目以上の行政処分等の場合
貸切バス事業者に対する行政処分等は、違反事項ごとに定められた量定(「基準日車等」といいます)により、行われることになります。
代表的な違反と処分内容
違反事項 | 初違反 | 再違反 |
---|---|---|
無許可経営 | 事業停止(30日) | 許可取消し |
運賃料金(変更)事前届出違反 | 60日車 | 120日車 |
事業計画変更無認可(営業区域、車庫の位置変更等) | 20~40日車 | 40~80日車 |
営業区域外運送 | 60日車 | 120日車 |
過労防止違反 (勤務・乗務時間遵守) | 警告~40日車 | 10~80日車 |
点呼の記録・保存義務 | 警告~40日車 | 10~80日車 |
乗務の記録・保存違反 | 警告~30日車 | 10~60日車 |
運転者に対する特別な指導監督及び適正診断受診義務違反 | 20~40日車 | 40~80日車 |
なお、10日車とは、1台の車両が10日間使えなくなることを意味しています。
法令違反による点数制度
監査を行った結果、事業者に法令違反が見つかった場合、上記のとおり、一定の条件のもと行政処分等が下されます。
通常、自動車等の使用停止処分が行われますが、その基準日車等の合計(処分日車数)が10日車までごとに1点の違反点数が課されます。
この違反点数は、処分が行われた日から原則として3年の間累積され、累積違反点数により「事業の停止処分(累計51点以上)」や「事業の許可取消処分(累計81点以上)」といったより重い行政処分が行われます。
ただし、行政処分等を受けた営業所が、2年間行政処分等を受けていないなどの条件を満たした場合は、当該行政処分等が行われた日から2年を経過する日に当該違反点数が消滅するものとされています。
自動車等の使用停止処分
自動車等の使用停止処分は、違反を行った営業所に所属する事業用自動車について、処分日車数に基づいて6ヶ月以内の期間を定めて使用の停止を行う処分です。
複数の違反が行われている場合は、個々の違反の処分日車数を合算したものとなります。
ただし、この合算した処分日車数が50日以下の場合には、自動車等の使用停止処分を行わず警告が行われます。
つまり処分日車数51日車から使用停止処分が下されることになります。
なお、実際の使用停止車両数は、違反営業所に所属する事業用自動車数に0.8を乗じ、小数点以下を切り捨てた台数となります。
例えば、10台が所属している営業所で合計80日車の違反があった場合、8台の車両が10日間使用停止されることになります。
事業の停止処分
事業の停止処分は、違反点数の累積51点以上となった場合に行われます。
また、悪質又は重大な法令違反を犯した場合に行われる場合もあります。
事業の停止処分が行われる期間は、処分日車数を違反営業所に所属する全車両台数で除した日数(小数点以下切り上げ)となります。
事業の停止処分の場合は、全ての車両が使用停止となるため、上記日数は一切の事業を行えません。
許可の取消処分
許可の取消し処分は、違反点点数が累積81点以上となった場合に行われます。
その他、次の場合に許可の取消し処分が行われることになっています。
①自動車等の使用停止処分若しくは事業の停止処分又は車検証の返納、ナンバーの領置命令に違反した場合
②事業の停止処分を受けた事業者が、3年以内に同一の違反をした場合
③運輸局長等の命令に従わない場合
④欠格事由に該当することとなった場合
⑤監査の是正措置が講じられていない場合
⑥適正化機関負担金等納付命令に従わず行政処分を受け、3年以内に同じ命令を受け、当該命令に従わなかった場合
まとめ
貸切バス事業に限らず運送業の規制や罰則は年々厳しくなってきています。
当然のことながら、ルールをきちんと守る事業者を残し、ルールを守れない悪質な事業者には早期に市場から退場させるべく、今後も厳しくなっていくことが見込まれてます。
ですから、しっかりとルールを理解し、日頃から、各種帳票類の整備、点呼時の確認の徹底を行い、違反・事故を引き起こさないよう常に注意することが必要です。
最後に、行政処分等の基準について、国土交通省の通達へのリンクを掲載しましたのでご確認ください。
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>> 巡回指導の調査事項とチェックポイントについて詳しくはこちら
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